todojunの真理を追究する日々

日々考えていることなどを徒然と書いていきます。

 進化しすぎた脳 / 池谷裕二

ISBN:4255002738
発売当初からかなり注目していた、池谷裕二さん著の「進化しすぎた脳」。立ち読みしたら面白くて、買ってきてすぐに読んでしまいました(難しいところは飛ばしつつ)。
池谷裕二さんを知ったのは、以前の日記で書いた「海馬」(ISBN:4255001545。文庫版はISBN:4101183147)でした。脳科学とは無縁な糸井重里さんと、脳科学研究の若手有望株、池谷裕二さんの対談作品でしたが、この2人のバランスがとてもよくて面白かった記憶があります。この形式は、竹中平蔵さんと佐藤雅彦さんの対談形式である「経済ってそういうことだったのか会議」(ISBN:4532191424)とほぼ同じで、このことから、ある分野を解説するのに、その分野の専門家と素人(素朴な疑問を提示できるところがポイント)の組み合わせがかなり効果を発揮することがわかります。
池谷さんの著作では、他に「記憶力を強くする」(ISBN:4062573156)を読んでいて、こちらはかなり脳科学の細かい部分にも触れていました(さすがにブルーバックスだけある)。今回の「進化しすぎた脳」は、ニューヨークの日本人中高生8名を相手に、対話式の講義をしたものの記録であり、非常に珍しい試みだと思いました。池谷さんはこのような講義を行った理由に、物理学者ファインマンの言葉「高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない」を挙げています。これは、僕が非常に共感するところで、高校教師を目指す一つの理由でもあります。
内容は、もうはっきりいって非常に面白いです!「ほぇーほぇー」の連続。今まで、脳科学については、専門的な本こそ読んでいませんが、軽めの本は何冊か読んできているので、ある程度わかっていると思っていたのですが、それでも驚きの連続でした。興味を持った方にはぜひ読んでいただくとして、僕が1番面白いと感じたことについて書いておきます。
面白いと感じたのは、まさにタイトルにある通り、脳は進化しすぎている、という仮説です。まず、イルカの方が人間より脳が大きくしかも皺が多い、という指摘をして、それならなんでイルカは人間のように頭が良くないか(人間の3歳児程度と言われている)、という問題提起をします。その理由は、イルカが人間のように身体が発達していないからではないか、と言います。人間は、道具を使ったりすることのできる器用な手や指を、また言葉をかなり自在に発することのできる喉を発達させてきた。そのことが、それに対応する脳の部位を発達させることになった、というのです。しかし、イルカはせっかく脳があるのに、それを生かすような身体の部位がないために「宝の持ち腐れ」になっているというわけです。実は、頭がいいと言われる人間ですら、脳の一部しか使っていない「宝の持ち腐れ」状態のようで、もし人間の手が2本だけでなくもっとたくさんあったとしても、自在に使いこなすだけの潜在的な能力を、人間の脳は持っているといいます。ただ、「宝の持ち腐れ」は必ずしもよくないことであるとは言えず、むしろ環境の変化への順応性という点から見ると、ある程度余裕は持っておいた方がいいということです。
この考えは非常に面白いです。特に、人間の手が2本だけでなくもっとあったとしたら、それに対応して脳が発達するので、自在に使いこなせる、というところです。これは、実際体験できることではないので、実感することはできませんが、感覚的にはなんとなくわかります。たとえば、こうやって文章をタイピングしているということ自体、人間が新しい能力を手に入れた、ということはできないでしょうか。今までは、文章を書くときには「手で書く」ということしかできなかったのが、キーボードでタイピング入力ができるようになる。実際には手を使っているわけですが、そのうち「手を意識せず」にタイピングできるようになります。これはあたかも、人間が新しい器官を手に入れたかのようです。そして、この「器官」の発生によって、脳がより発達することになり、逆にそれがさらに「器官」を発達させることになる。ここから、実際の器官でも同様なことが起こるのではないか、と想像することができます。
このことを考えると、「教育」が非常に大切だということもわかります。せっかく「進化しすぎている」と思われるくらいの脳が与えられているのに、教育が適切に行われないと、それが十分に生かされない。教育とは、人間が人間として生きるための知恵の蓄積(とその教授)とも言えるわけです。逆に、脳は潜在可能性を秘めているとも言えるので、その生かし方によっては、それを素晴らしく開花させることができるわけです。だから、日々の積み重ねによって、その差が顕著に現れるようになるのでしょうね。
と、、なんだか教訓的になってしまいましたが、脳科学にとどまらず、色々な意味で考えさせられる内容がこの本には詰まっています。興味がある人は、ぜひ一読してみることをおすすめします。

進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線

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